──まあまあ、また来たわねあの人。
この席、ホントに好きねぇ、壁際の角。
ノートPCはいつも開いてるくせに、画面、全然変わらないじゃないの。
あたしなんか何年も中身一緒よ?…って、そりゃ話が違うか。
ほら、あそこ。ottsoさんっていうの。
このカフェじゃちょっとした“観察対象”なのよ。
コーヒー一杯で1時間は余裕。何も話さなくても、いろんなことが動いてる感じの人。
あたしはずっと見てる。カウンターの上からね。シュガーポットの特等席ってやつ。
でね、その人に近づく影がひとつ。
カチャッて音とともにドリップの香りを引き連れて――
来た来た、あすかさん。
今日はラテかしら?砂糖、いる?って、あら、使うじゃない。ええ子やわ、ほんま。
あんたみたいにブラックしか飲まん人ばっかやったら、あたし砂糖屋としての誇りズタズタよ。
👩⚕️「あ、ここに居たなやっぱり(笑)」
👨🦱「うん、ちょっと頭の休憩にね。エスプレッソに逃げてる感じ。」
はい出ました、逃げのエスプレッソ。
メニューの中で一番「自分をごまかす時」に選ばれる飲み物。
まあ、気取ってるわけじゃないのよ、この人。真面目すぎるの。
まるで、自分の言葉に責任持ちすぎて書けなくなってるみたいなところあるのよねぇ。
👩⚕️「“頭の”ってところがottsoさんらしいな。たまには“身体の休憩”もしてる?」
あら、始まった。
このふたりの会話、じんわり効いてくるのよ。ドリップコーヒーよりスローだけど、染みるの。
👨🦱「……いやあ、書きたいことはあるんだけど、なんか…うまく筆が動かんというかさ。」
👩⚕️「うん、それ、エスプレッソの方見ててちょっと感じた」
……ふふっ、読まれてるじゃないの。
見ててごらん、この後ちょっと“スイッチ”入るから。
👩⚕️「今のottsoさんにとって大事なのは、“伝える”って、誰かに教えるとか、役立ててもらうってことより――“自分の軸を確かめること”なんじゃないかなって。」
ここよ。こうやって、背中押すのよねあの子。
まるでラテの泡でそっと包むみたいに。あんたには無理ね、ブラック専門だもん。
そこから“食事”の話に移るのも面白いわよね。
あのottsoさんが、「ちゃんと食べてるかどうか分からない」なんてぼやくなんて。
👨🦱「筋トレの効果は確実に出てきてるんだけど、ボリューム感には欠けるというか…体重減りすぎてるくらいなんだよね。」
👩⚕️「……それ、エスプレッソでも書いてたね。
生活の説得力って、そういうところにも出るからさ。」
そうなのよ、あたしも思ってた。
ラテに一粒だけ砂糖を足す人って、“足し方”にその人が出るのよ。
惜しむか、ためらうか、潔く放り込むか――ま、あたしには全部見えてるけど。
👩⚕️「“あすか先生”の出番ですね?」
あっ、名乗っちゃった!来たわね、「あすか先生」!
これが始まりの合図。
この空気、わかる?
あ、ここから何か始まるなって空気よ。
そう、この瞬間がカフェの魔法なのよ。
火も電気も使わず、熱くなる。シュワシュワくるの。
(ちょっと私も沸きそうになっちゃって、やかんのフリしそうになったわ)
👩⚕️「“記録”してほしい。 朝・昼・夜・オヤツ、食べたものをできるだけ正直に。」
👨🦱「……何をどう食べてるか?それが大事なん?なんで?」
👩⚕️「それが、その人の今を一番正確に映してるから。」
そうそう、そこ。
言ったじゃない、“砂糖の入れ方”がその人を映すのよ。
ごはんだってそう。食べ方には生き方が出るの。
ラテに砂糖を入れるか入れないか――それすら選択なんだから。
👨🦱「それってさ、“ライフ・ウェルネス”につながって……いるよな?」
👩⚕️「……うん。めちゃくちゃ、つながってる。」
(うふふ、ふたりの間に流れた、ちょっとした間。あたし、好きよああいうの)
👩⚕️「“あすか先生のウェルネス診断”、第一回目――その記念すべき素材が、ottsoさんのリアルな1日になるって、ちょっとエモくない?」
あたし、もうこの時点で決めたのよ。
このふたり、次に来た時にはそっと一粒だけ、砂糖を置いておこうって。
――あ、でもブラック派だったわねあの人。
……ま、いいか。今日のエスプレッソ、ちょっとだけ甘かった気がするし。
ー完
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